戦わない離婚手続き

目次
1 多発する連れ去り別居
2 連れ去り別居の原因
3 家族再生を願う人たちの増加と成功例の増加
4 戦わない・争わないというのはどういうことか
5 争わない方針が実際はなかなか難しいこと
6 弁護士の役割
7 離婚が避けられなかったとしても


1 多発する連れ去り別居
 ある日、仕事を終えて帰宅したら、妻と子どもが家におらず、衣服など身の回りの荷物がごっそりなくなっているということが増え続けているようです。事件に巻き込まれたと思って警察に届けると、警察は行き先をわかっているようですが、教えてくれません。結局、妻は、計画的に子どもを連れて身を隠したり、実家に行ったりし、離婚調停や保護命令の申し立てがなされるといういわゆる連れ去り事件が、増え続けているようです。

 連れ去り事件の実数の統計はありませんが、別居や離婚によって、子どもと同居しなくなった方の親からの面会交流調停が、平成にはほとんどなかったにもかかわらず、右肩上がりに増加しています。納得できない形で子どもに会えなくなっている親が面会を求めて調停を申し立てるのですから、実務的感覚としては連れ去り別居の増加と連動していると感じています。


2 連れ去り別居の原因
連れ去り別居の原因の多くは、思い込みDVです。つまり、本当はひどい虐待などが無いにもかかわらず虐待があったと被害的に感じてしまい、相手と一緒にいることに安心することができなくなり、相手が近くにいることに緊張と恐怖を抱き続けてしまい、毎日の生活に耐えきれずに別居に至るということです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

この他に、不貞を成就するとか、使い込みの発覚を隠そうとして、DVをでっちあげる虚偽DVの場合も結構あります。もちろん、多くはありませんが、実際の虐待事例もあります。

また、さらに背景としては、虐待事例などが無く、連れ去り別居をしても、離婚を認め、親権を連れ去り側にする家裁の実務が連れ去り別居の背景にあるということも言えると思います。また、さらに背景としては、夫婦間の不具合に対して、適切なアドバイスをする機関が十分に存在しない上、そのような夫婦の関係修復を行うという考えが定着していないということも見逃せません。


3 家族再生を願う人の増加と成功例の増加
思い込みDVによる子どもの連れ去り事案を中心に、子どもを連れ去られても、また家族みんなで楽しく暮らしたいという希望をはっきり掲げる人たちが少しずつ増えていることを感じます。これは実は、「思い込みDV」というメカニズムを理解していただいて、子の連れ去り別居という行為が、残された方(多くは夫)に必ずしも主たる原因が無く、妻の思い込みに原因があるという理解から、自分が必要以上否定されたととらえる必要が無いという意識変化と、自分の行動にも改善するべき点があり、それを実行してみようという決意をお持ちになったことによって可能となったようです。私のブログを読んでいただいた方々から多くのご連絡や相談をいただき、ありがたく実感しています。

その中で、嬉しいご連絡が寄せられるようになりました。
一度離婚したけれど面会交流を順調に重ねて拡大して、再婚することとなりました。

妻に連れ去り別居をされたのですが、争わない戦略で、粘り強く待ち続けた結果、妻が帰ってくることになりました。

離婚は避けられませんでしたけれど、最後はお互いが譲歩して話がまとまり、子どもたちとの交流も確保できるようになりました。

等のご報告をいただいています。

4 戦わない・争わないというのはどういうことか
戦わない・争わない戦略というのは、例えば妻が家を出たのは、自分に安心できないからだという理解を前提に、自分が安心でいる存在だと相手に実感してもらうために行動する、あるいは、安心できなくなるような行動を行わないというシンプルな戦略です。
状況によって変わってくるのですが結論としては、相手が「自分が尊重されている」と実感できるようにする戦略を立てるということと、相手のこちらの攻撃に必要以上に反撃しないで、可能な限り受け流すというような戦略です。

攻撃に対して反撃をするとさらなる攻撃がはじまり拡大していくという悪循環になります。これを絶つということが肝心です。

5 争わない方針が実際はなかなか難しいこと
行うことは、この通りシンプルなことですが、実行はなかなか難しいことです。

理由としては、

・ そもそも連れ去り別居や離婚請求で、こちらが否定されているのだから、頭にくることは当然のことで、防御のための攻撃態勢に無意識に入ってしまうこと

・ 真面目過ぎる、正義感が強すぎる、公正さを求めすぎる、細かすぎるということが客観的にはあります。これ、元々の性格もあるのかもしれませんが、むしろ伴侶から否定されて、子どもとも会えないという過酷な状況の中で生じる感情という側面も確かにあると思います。物事を被害的に受け止めやすくなり、些細なことでも自分が攻撃されているかのように反撃にすぐ移るような臨戦態勢の心理になってしまっているのだと思います。

なかなか効果が表れないということも作戦の遂行困難になる要因です。

相手方の思い込みが病的に強い場合も多く、それが成功を妨害するということも少なくありません。

・ 相手方の環境が、むやみに相手方をちやほやする環境であることが案外多く、そのような「ぬるま湯から出たくないという心理」が働いてしまうということもよく見られることです。


6 弁護士の役割
この事例の弁護士の最大の役割を一言で言えば、被害感情による行動、主張に追随してしまわないことということになるでしょう。家族再生という目標を堅持して、その目標とあなたの主張をしてしまった場合のデメリットを告げていくことになります。もちろん、当事者の方々の気分感情に反することを言うのですから、なかなか弁護士のメンタルにも影響が出てくることも無いわけではありません。依頼者の方の家族再生の願いを信じて頑張るしかありません。


7 離婚が避けられなかったとしても
戦わない・争わない戦略の最大の目的は、家族再生です。しかし、手続きの進行具合、相手方の病的なまでの姿勢などで、なかなか難しいことはむしろ多いことかもしれません。不幸にして離婚に至ることも少ないとは言えない状況です。

それでも、戦わない、争わない戦略、つまり相手が自分に対して安心感を持ってもらう戦略を貫くと、相手の警戒感が大幅に低下することは少なくありません。定期的な面会交流が実現することはかなり増えてきました。

また、不満はもちろんあるけれど、納得のゆく離婚調停を成立させることができたというご連絡をいただくことも増えています。

戦わない・争わない戦略は、様々な理由からご本人にとってプラスになる戦略のようです。それは必ずお子様にとっても大きなプラスになることだと思います。