万引き事件を中心として犯罪がなぜ起きるのか、予防をするためにはどうしたらよいのかを考える
1 万引きをする場合、それが違法だということをもちろん知っている。
2 職業型万引きと一般的な万引き(本稿のテーマ)の区別
3 万引きを行うことはいつ、どのように決定されるか
4 多くの人が万引きをしないメカニズム 本能が機能すれば万引きはしない
5 万引きの選択肢はなぜ出現するのか
6 万引きをしないための方法とは 根本的対策と対症療法
7 弁護料の目安
1 万引きをする場合、それが違法だということをもちろん知っている。
「家族が万引き事件をした」ということで、熱心に刑事弁護を依頼される親御さんやお子さんが増えています。しかし多くの方は、「万引きは犯罪だし、警察沙汰になったのだから、本人も十分反省しているからもう二度としないだろう」とお考えになり、「専門の弁護士に高いお金をかけて依頼するより、無料の弁護士でいいじゃないか」とお考えになっているようです。それでも二度と万引きをしなくなる人がおそらく多数だと思います。
しかし、一部の人は、その後も万引きを繰り返してしまいます。万引き犯に対する反応は、最初は注意、次に罰金刑、次に懲役の執行猶予、そして実際に刑務所に行き強制労働(懲役)ということになる人が少なからずいらっしゃいます。
万引きを繰り返す理由は対策を立てていないからです。
ご注意いただきたいことは、万引きが犯罪だと知らないで万引きをする人はいないということです。だから、「どうして犯罪だとわかっていながら万引きをしてしまったのか」という視点を持たなければなりません。そして万引きをした人の多くは、「警察に捕まることまでは考えていなかった」から万引きができてしまったのです。2度目、3度目の万引きの時も、警察に捕まることまでは考えていないことが実際には多いようです。
2 職業型万引きと一般的な万引き(本稿のテーマ)の区別
ここで、分類をします。万引きは、大きく二つに分けると、働けない事情があり福祉にも対応されていないなど、万引きをしないと食べるものもないという場合で、万引きを反復継続している職業型万引きと、食べるのには困らないのになぜか万引きをしてしまったという一般的万引きに分けることができます。不可解なのは一般的万引き事案です。今回は一般的万引き事案について検討します。
3 万引きを行うことはいつ、どのように決定されるか 無意識に近い心理状態
正確に言うと、自宅で「よし、これから万引きをしよう」というような、明確な意思決定をしないで万引きが行われることが多いようです。もちろん夢遊病等で意識が無く万引きをしているわけではないようです(実はそういう特殊な事案も担当したことがあります)。
実際は、意識と無意識のギリギリのところで、「万引きをするという選択肢」が降ってわいてきて、意識が十分働かないために「やっぱり悪いことだからやめよう」というストップがかかることなく実行してしまっているようです。
しかし、万引きをする時は、誰かに見られないように緊張して素早く実行しようとはしているのです。
ところが、あまりはっきりとした意識を持っていませんから、自分では緊張しているつもりなのですが、いわゆる万引きGメン等からすれば、「これからこの人は万引きをする。」ということがわかるような不自然な動きをしているようです。実際はずうっとみられていて、お金を払わないでレジを通過したところで呼びかけられるわけです。初めから見られているのです。
万引きをする人の多くは、意識と無意識のギリギリと言っても、自分が万引きをしているときの記憶はあるようです。ところが、一定割合で、自分が万引きをした記憶の無い人もいます。「誰かが私のカバンに商品をいれた」という弁解をする人は少なくありません。もちろん防犯カメラには万引きをしている姿が撮影されています。それでも納得できないようです。嘘をついている可能性はもちろんあるのですが、嘘をついているというより、自分が万引きをしたという実感が無い人も多いのではないかと感じることも多いです。嘘をついても何も得することが無いことをわかっても言っているからです。
私は、誰かが入れたということは、嘘ではなく、「作話」の場合があると感じています。但し、ここで意識が低下していたとしても、それが病的なものであるという裏付けが無い限り、それで刑が軽くなるということはありません。長くなるのでその理由はここでは触れません。
まとめとしては、万引きをする時は、明白は意識をもって、これから万引きしようという意思決定をしているわけではなく、「気が付いたら万引きをしてしまっていた」というくらい、意識と無意識のギリギリのところで行われることが多いということです。そうすると、万引きをしてはいけないという意識があったとしても、実際に万引きをしているときには、それが万引き防止にあまり役に立たないということなのです。
4 多くの人が万引きをしないメカニズム 本能が機能すれば万引きはしない
なぜ、万引きをしてしまうのかということを考えなくてはならないわけです。これがなかなか難しい不可解な犯罪類型であるのが万引きなのです。我々が常識だと思い込んでいることが正しくないから、万引きは起きてしまい、繰り返してしまうのです。
万引きの理由を考えるにあたっては、逆に多くの人が万引きをしないということに着目するべきです。万引きはしないとしても、欲しい商品があるけれど、お金が足りなくて悔しい思いをすることも多いと思います。ただ悔しいという思いはします。欲しいという感情もあるでしょう。しかし万引きはしません。
この心理を分析してみると、通常の本能が自然と発揮できる状態の場合は初めから万引きをするという選択肢が無いか、仮に出てきてもすぐにその選択肢は打ち消されてしまっているようです。
その理由は、人間が群れを作る動物だからなのだと思います。人間は言葉もない時代から群れを作っていました。他の動物と異なるのは、ただ近くで一緒に行動するのではなく、お互いに助け合って生活していたというところです。仲間から追放されること、追放につながる仲間から低評価されることを本能的に恐れたため、仲間の害になるようなことをしない、仲間から定評を受けるようなことをすることを怖く感じるという本能があると考えるとわかりやすいです。
だから、万引きという他人の物を盗むということを思いつくことができなくなるし、少しでも思いついたら怖くなってすぐに打ち消すことを本能的に行っているわけです。
だから多くの人は、本能が働く限り、犯罪をしないのです。
5 万引きの選択肢はなぜ出現するのか なぜ本能が機能しないのか。
では、万引きをする人が万引きをするのはどうしてなのでしょうか。本能的に犯罪を行わないというなら、万引きをする人はどうして本能が働かなくなるのでしょう。本能が働かなくなる事情とは何なのでしょうか。
ヒントは「側部抑制」という生理学の現象にありました。アリストテレスの時代から、「身体の痛みというものは一番痛い痛みしか感じない」ということで知られていました。これを本能にスライドさせて考えると、「本能は、一度に一つの本能だけが発揮されて、既に別の本能が発揮されているときはもう一つ別の本能が働きしにくい」ということなのだと思います。
つまり、今、「仲間から追放されそうで悩んでいる」とか、「孤独で誰からも見放されていると感じている」とか、「不条理に自分が低評価されていて、それを改善してもらうことができない」等ということでかなり強く悩んでいて、その状態が続いていると、何とか今の人間関係を改善したいという本能的要求ばかりが強く出てしまい、万引きをすることが怖いという本能が十分に出てこないという現象が起きているようです。
ただ、この人間関係を改善したいのにどうしようもないというストレスは、実際に何らかの人間関係上の不具合がある場合だけでなく、何らかの精神不安によって人間関係上の理由が無いのに強いストレスになって本能的要求が強く出てしまうことがあるようです。あるいは、確かに人間関係に不具合はあるけれど、健康状態によって、普通はそれほどストレスにならないはずの出来事が、強いストレスとなってしまうこともあるようです。
うつ病や不安障害等の精神問題や、内分泌系の問題、ホルモンのバランスの乱れ、あるいは頭部外傷などが容易になることがあります。
また、その問題のある人間関係が現在の人間関係ではなく、子どもの頃の人間関係に理由があるという場合もありました。
このような本能的要求が満たされないというストレスが強く続いていくと、自分が万引きをすることの選択肢が表れてしまい、かつ、選択肢を打ち消す力が弱くなるということが起きていると考えて矛盾はないと、これまでの事例を見てそう思います。
6 万引きを防止するための方法とは
1段階 根本問題
万引きを繰り返さないための根本問題は、孤立を解消することです。特に高齢者の万引きには孤立をしているケースが圧倒的多数です。高齢になっても、現実の社会では、様々な不具合が生じます。不意にお金を請求されたり、誰かから悪口を言われてたり、自分ではどうしようもないことが起こるものです。子どもたちは、「そのくらいのこと」本人は解決してきたはずだと思うのですが、年齢とともにうまく解決に向かうことができなくなるものです。
年齢に応じて、親などに、時間をとって関りを積極的に持っていくことは、人間にとって大切なことのようです。
また、会社で低評価を受けているとか、自分に非が無いのに叱責されるというようなことがあることまでは、簡単には改善できないことです。そういう場合、家族や友人関係等、持続的なコミュニケーションが取れる人間関係に、自分が帰属しているということをしっかり認識してもらい、安心できる人間関係が自分にはあるということを強く自覚する必要があります。そうして、他の人間関係ではうまくいかなくても、家族などコアな人間関係では、大事にされ、尊重され、そして自分も役に立っていると感じてもらうことが犯罪という選択肢が降ってわかないためにはとても大切なことだと思います。
2段階 対症療法
但し、家族がいないとか、家族との人間関係がストレスだとかと言う場合もあります。なかなか根本的解決が図られないという事情も多いかもしれません。また、根本問題に着手はしているけれど、一度万引きを実行してしまうと、選択肢が具体的に表れてしまうことが容易になる傾向もあります。このため、今すぐできる対症療法も必要になると思います。
1)過去の自分の万引きによって、だれがどのように苦しむかということを想像する。量販店など、従業員の方が苦しむということを具体的にイメージしずらい事情もあります。しかし、想像でも構いません。
例えば、万引きの責任を店長が取らされて給料が減額されてしまった。住宅ローンの支払いの計画が狂ってしまってとても困っているとか、なんでも良いので、自分がしたことが誰にどのように迷惑をかけるか具体的にイメージをすることが大切です。
予め反復してイメージづくりをすることによって、万引きの選択肢がおりにくくなり、選択肢が出てきても打ち消しやすくなる事情となります。
2)自分の「やっぱりやめた」と思わなかった事情を意識することも有効です。「自分が万引きをしてしまう人間だ」と考える必要はないと思います。事情があって万引きをしやすくなっていたのだから、その事情を探すことです。自分を必要以上に低評価することも避けられます。
3)具体的な行動計画を立てる
万引きに限らず、犯罪の反省で意味のないものは、気が弱かったからとか、十分な考えが無かったからとか、他人に流されてしまったとかという反省です。どうして意味が無いというかというと、その反省に基づいて、犯罪を抑止する流れが作れないからです。気を強くするなんて方法はありませんし、十分に考えるということも結局何をするのかわかりません。もっと具体的に原因は考えなければなりません。それを聞いて他人が絵を描けるようになるまで具体的に考えるべきです。そしてその原因を除去するための、実行可能なできることをやろうとしなければ反省とは言わないわけです。
例えば、夜になったら一人で買い物に行かないとか、遠くに住んでいる家族が毎日何時にその日あったことの話を電話で聞くとか、週末は子どもたちが交代で親の家に泊まるとか、借金に悩んでいたり、仕事の場に問題がある場合は弁護士を依頼して解決してもらうとか、精神的に不安定であれば弁護士が紹介するカウンセリングを受けるとか、健康上の不安があれば医師の診察を受けるとか、できるだけ具体的に再犯防止につながる行為を考えて、具体的に実行するということが必要です。
必ずしもこのような具体的な対応が必要な場合だけではありません。自分ではっと気が付いて二度と万引きをしないという人の方が多数であることは間違いないと思います。
しかし、その際もこの記事は参考になると思います。また、そうならないように慎重に対策を立てるということも、選択肢としてはありだと思います。
7 弁護料の目安(税込み)
あくまでも目安です。報酬については、事情があれば分割払いもあります。再犯防止の対策の構築、被害者との示談費用を含んだ料金です。相談だけの場合は相談料のページに記載してある通りです。
警察沙汰にならない段階の被害店舗との示談交渉、自首支援 と万引きの予防対策の構築 22万円
警察に逮捕されるなど立件されているけれど起訴前である。
着手金33万円
但し、警察沙汰になる前から受任している場合は、逮捕時に11万円のみ。
報酬 不起訴の場合 22万円
起訴後の弁護 44万円
但し、起訴前事件から引き続いて受任する場合は、起訴時に11万円のみの追加。
報酬 執行猶予の場合 22万円
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