過労死・労働災害

長時間労働をするとなぜ過労死するのか <脳・心臓疾患編><精神・自死編>

長時間労働をするとなぜ過労死するのか

<脳・心臓疾患編>

1 なぜ過労死が起きるのかについて、長時間労働と脳や心臓疾患との関係について説明していきます。

2 「過労死」という言葉の意味について、説明します。「過労死」とは、長時間労働をはじめとする過重労働によって、
脳や心臓の血管が壊れたり、詰まって血液が流れなくなってしまったりすることにより、
脳や心臓といった命にかかわる臓器が止まってしまい、
命を落とす、あるいは植物人間のような状態になるなどの致命的な状態になることを言います。
また、やはり過重労働等によって精神疾患になって自死をしてしまうこと、致命的な状態になることも含みます。
過労死として認められる死因の代表的なものは、くも膜下出血、脳梗塞、脳内出血、心筋梗塞、大動脈解離、うつ病などによる自死があげられます。

3 過労死の労災認定において、長時間労働がどのように評価されているかを見てゆきましょう。
長時間労働とは、基本的には、ひと月当たりの残業時間と休日労働時間の合計で評価されます。この時間が長くなればなるほど、睡眠時間が短くなるとみなされます。
統計上、残業時間と休日労働時間の合計がひと月当たり100時間を超えると、その月は一日あたりの睡眠時間が5時間を切ってしまうとされています。同様に80時間を超えると1日当たり6時間を切り、45時間を超えると7時間半を切るとされています。

4 このように、睡眠時間の問題として考える理由は、
睡眠時間が短いと、脳や心臓の血管に致命的な問題が起きる可能性が高くなるということが統計上明らかになっています。
1か月の平均睡眠時間が1日当たり5時間を切ってしまうと、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの疾患や心筋梗塞や狭心症、大動脈解離が起こりやすくなるとされています。
一日5時間の睡眠時間が確保されても1か月を超えて1日当たりの睡眠時間が6時間を切る状態であれば、やはり同様のリスクがあるとされています。
1日当たり7時間半の睡眠時間が確保されなくなると、リスクが生まれてくるようです。

6 ここでは、もう一歩踏み込んで、睡眠時間が短いと、どうして血管に問題が起きるかについて考えてみましょう。

7 人間の体の日内変動に鍵が隠されていました。
  人間の体は、昼間は活動しやすいように体のシステムが変化するようです。体を動かすということは筋肉を動かすことです。より早く、より強く筋肉を動かすためには、筋肉に血液を流れるようにする必要があります。
このため、心臓を活発に動かして、つまり血圧をあげて血管を流れる血液の量を増やし、脈拍を上げてどんどん血液が流れるようにします。
この結果、血管が広げられます。血管が膨らむわけです。ちょうど風船が膨らむように、血管が膨らむと、血管の壁が薄くなり、もろくなっていきます。特に、血管が真っ直ぐになっておらず、こぶのようないびつな形になっているところは風船上にこぶが膨らんでしまいます。血管がもろくなり破裂することで起きるのがくも膜下出血です。
  血液の量も変化しますが、血液の質も変化します。活動につきものなのは、ケガ、出血ですが、出血に備えて血を止めやすくする成分が血液の中で多くなっていきます。実際にけがをしてから多くなるのではなく、ケガをするのではないかという緊張があればそれに反応してしまいますから、ストレスが加わればドロドロ血になりやすいわけです。このドロドロは血液のカスとして血管に積み重ねられていくようになります。固めのヨーグルト上のカスが冠動脈にたまり、血管を詰まらせることによって起きるのが心筋梗塞です。心臓からカスの塊が脳の血管に飛ばされ、脳の血管を詰まらせるのが脳梗塞の代表例です。

8 血管の奇形は頭蓋骨の奥深いところ、脳のすぐ近くのクモ膜の内側にある血管に見られます。このこぶ状の血管が破裂してくも膜下出血が起きます。

9 心臓は、心筋という筋肉によって動かされています。心筋を動かすためには、心臓を囲むように配置されている冠動脈から血液が供給されることが必要です。この冠動脈が詰まり、心筋に血液が供給されないと心臓は止まってしまいます。これが心筋梗塞です。

10 このように見ていくと、血管は弱っていく一方のように見えます。しかし、体の仕組みはちゃんとうまくできています。日内変動といいましたが、昼の仕組みが活動している仕組みならば、夜の仕組みが、休む仕組みとしてあるわけです。昼と逆のことが起こります。血圧が下がり、脈拍が減少することによって、血液の流れが穏やかになるわけです。これによって、昼間に少し無理をさせた血管を休ませることができます。休むことによって血管が自動的に修復されていくのです。夜の仕組みは急速によるメンテナンスの仕組みと言えるでしょう。そして、このメンテナンスを効果的に行うためには睡眠を十分とることが必要になります。睡眠が不足していると十分にメンテナンスをすることができません。さらに睡眠が不足しているどころか、本来休むべき時間帯にストレスがかかっていると、メンテナンスどころか血管はますます疲弊していきます。この蓄積のため脳や心臓という命に係わる臓器が大きなダメージが生まれてしまう、これが過労死です。

11 脳や血管の状態は、発症直前にならないと、なかなか自覚することができません。気が付いた時には取り返しのつかないことになっているわけです。大きな要因が睡眠不足であれば、職場の種類を問わず、どこでも起きてしまうのが過労死だということができるでしょう。また、つい仕事に熱心な人が、あるいはトラブルがあって仕方なく、長時間労働をしてしまうことはあり得ます。
しかし、過労死が起きる仕組みが分かれば、自覚症状がなくても、長時間労働をしないことで過労死の多くを防ぐことができます。
長時間労働を防止することはとても大切なことです。本人だけでなく、職場全体で取り組むことが大切ですし、かけがえのない家族を守るという観点から、家族同士が注意をすることも大切だと思います。長時間労働をなくすことは、過労死予防の大切な第1歩です。


<精神・自死編>

<精神・自死編>

1 過労自死が起こる仕組みを長時間労働との関係を中心に考えてみましょう。

2 「過労死」という言葉の意味について、説明します。「過労死」とは、長時間労働をはじめとする過重労働で、
脳や心臓の血管が壊れたり、詰まって血液が流れなくなってしまったりすることによって、
脳や心臓といった命にかかわる臓器が止まってしまい、
命を落とす、あるいは植物人間のような状態になるなどの致命的な状態になることを言います。
また、やはり過重労働等によって精神疾患になって自死をしてしまうこと、致命的な状態になることも含みます。
過労死として認められる死因の代表的なものは、くも膜下出血、脳梗塞、脳内出血、心筋梗塞、大動脈解離、うつ病などによる自死があげられます。

3 過労死の労災認定において、長時間労働がどのように評価されているかを見てゆきましょう。
長時間労働とは、基本的には、ひと月当たりの残業時間と休日労働時間の合計で評価されます。この時間が長くなればなるほど、睡眠時間が短くなるとみなされます。
統計上、残業時間と休日労働時間
の合計がひと月当たり100時間を超えると、その月は一日あたりの睡眠時間が5時間を切ってしまうとされています。同様に80時間を超えると1日当たり6時間を切り、45時間を超えると7時間半を切るとされています。

4 精神疾患や自死が労働災害であると認定されるときの代表的パターンは、①1か月あたりの残業時間と休日労働時間の合計が100時間を超えていて、②長時間労働以外の重大なストレス、上司や同僚とのトラブルや、仕事上での特別のミスなどがあり、③これらの事情によって精神疾患を発症した場合です。

5 精神疾患の発症の場合も、脳や心臓の血管疾患と同じように、睡眠時間の不足が重要な要素になることは、大変興味深いことです。やはり同じように日内変動がキーワードになります。

6 人間には、昼間に活動をしやすくするシステムがあります。人が活動をするとは、いろいろな出来事に遭遇し、いろいろな人と出会い、様々な刺激を受けます。中には、自分が事故にあったり他人の事故を目撃したり、仕事上の大きなミスをしてしまって上司や同僚に顔向けできなくなったり、無理難題を言われて逃げられないというように追い詰められることもあるでしょう。

7 昼間の刺激は、睡眠によって落ち着かせることができます。睡眠といっても一本調子に眠っているわけではなく、深い睡眠の時間帯、浅い睡眠の時間帯、脳が活発に活動する時間帯と、いくつかのパターンの睡眠が順番に表れて、それがおおよそ90分くらいで1サイクルを構成しています。このサイクルが、4、5回繰り返されてひと晩の睡眠になるようです。そのサイクルの最後に現れる型であるREM睡眠に着目されています。脳波を調べると、REM睡眠の時間帯は、脳が起きているときと同等かそれ以上に活発に動いているそうです。
 最近の考え方では、このREM睡眠の時に、昼間に起きたことを脳が追体験しているのではないかと言われています。これまでの経験と照合し、どの程度危険なことだったのか、危険回避の方法があるのか、それは簡単に実行できるかなどを記憶の棚に並べ替えしているようなのです。「記憶のファイリング」という言い方をします。このファイリングがきちんとできれば、安全が腹に落ちた状態となり、自覚しないまま続いていた警戒心を解除するようです。REM睡眠が繰り返されることによってきちんとファイリングができるようです。

8 しかし、REM睡眠は各サイクルの最後に現れますから、一定時間の睡眠時間が確保できないと、REM睡眠の回数が足りなくなり、ファイリングできず、警戒心が持ち越されていくことになるようです。不安が蓄積されていくことになります。
不安の持続してしまうと、脳の疲労が起きることから、二者択一的な考えになっていったり、複雑な考えができなくなったり、悲観的な考えの傾向になったりするようです。危険が感じやすくなってしまうようです。
昼間のストレスと相まって睡眠時間の不足は、自分の心をコントロールする力を低下させて、精神をむしばむという関係にありそうです。

9 睡眠不足以外の精神をむしばむ事情としては
パワーハラスメント、顧客からの強烈な追及、過剰なノルマなどの事情だけでなく、自分の業績が正当に評価されない、報われない、できないことや人の嫌がることばかりやらされる等、自分が仲間として尊重されないということが積み重なることも危険な事情になるようです。

10 職場で精神を病んだ事例を見ると、人間は仲間の中で仲間として大切に扱われたいという根本的な要求を持った生き物のようです。仲間として尊重されていないと感じることは重大な危機感を持ち、これが蓄積されていくと不安が膨らんでいき、冷静に物事を考えて判断する力が鈍っていくようです。長時間労働によって睡眠時間が足りなくなり、REM睡眠の効果が発揮出ない事態になることと相まって、精神がむしばまれていくということのようです。

11 精神の異常はなかなか自覚することができません。周囲が気が付いた時には取り返しのつかないことになっていることもあります。その一つの大きな要因が睡眠不足であれば、職場の種類を問わず、どこでも起きてしまう可能性があります。
しかし、過労による精神疾患が起きる仕組みが分かれば、過労死の多くを防ぐことができます。
長時間労働を防止することはとても大切なことです。本人だけでなく、職場全体で取り組むことが大切ですし、かけがえのない家族を守るという観点から、家族同士が注意をすることも大切だと思います。仲間として尊重しあうこととセットで長時間労働をなくすことは、過労自死予防の大切な第1歩です。


上の記事は、東北希望の会の過労死啓発動画のページで、音声とパワーポイントのスライドでご覧になれます。



過重労働の家族に与える影響人が人を追い込む職場から人と人が助け合う職場への転換を求めて                                    。

過重労働の家族に与える影響
人が人を追い込む職場から人と人が助け合う職場への転換を求めて

1 私たちは、過重労働で命を落とさなくても、家族を巻き込んで不幸にする実態を多く見ています。このことについてお話しさせていただきます。

2 長時間労働のために朝に家族が寝ている間に家を出て、家族が寝静まってから夜に帰ってくるという勤務形態をしている方がいます。出張が多く、1週間に一度しか返らないという人もいます。週末も仕事をしているか、休んでばかりいるという人も多くいます。
 これでは、子どもも大人も、相談がしたくても相談することができません。小さな子供がいるご家庭で、近くに自分たちの親もいないという場合は、子育てに無理が入り込むご家庭もあります。その結果、子どもにも悪い影響が出ることもあります。また、家族の一体感が持ちにくく、過重労働をしている人を除いた人たちが家族みたいになってしまうことがあります。無理な労働をしていることで、健康面が心配になりますが解消する方法が見当たりません。

3 パワハラも家庭に深刻な影響を与えます。
パワハラによって、労働者は、職場の中で孤立してしまい、職場にいることに危機感や不安感が高まってしまいます。この感情は、帰宅しても持ち越してしまうことがあります。そうなると、危機感が敏感になってしまい、普段だと笑って受け流すことができるような子供の言動でさえ、自分を攻撃しているかのような過敏な反応をしてしまうことも出てきます。家族からすると、どうして自分を怒るのかわからなくなり、怖がるようになってしまいます。
職場での理不尽な扱いを家庭で再現する人もいます。会計を担当していた労働者が、職場で帳簿と現金があわないことがあると、職場の同僚全員でお金を探させられていたようです。その人が、家庭で、妻に家計簿の作成を命じ、家計簿と財布の残高が会わないと言って、夜中に家じゅうお金を探させたという相談もありました。妻は、なぜ夫がそういうことをするのか理解できません。目を吊り上げてお金探しを命じるものだから、怖くていやだと言えなかったと言います。

4 長時間労働と強度のストレスでうつ病になった労働者がいました。話をすることもおっくうになってしまい、自分の部屋に引きこもりがちになってしまいました。妻は、うつ病や過重労働の知識がありません。このため、夫が自分を嫌っているために、自分を拒否しているのだという気持になってゆきました。やがて夫に対する怒りに代わり、修復ができなくなり離婚になってしまいました。
うつ病にり患して、外にも出られず一日中家の中に閉じこもり、悲観的な言動を繰り返すようになった事例がありました。家族は気が滅入り、家族の方が眉間にしわを刻むようになってしまいました。また、家族に対する依存傾向が強くなってしまった事例は、買い物に行っても、すぐに心配になり、ひっきりなしに電話をかけてくるということが続いたということがありました。

5 もちろん過労死や過労自死が起きると、家族は深刻な悲しみの状態にとらわれてしまいます。「これからどうやって生きていこう」という以前に、「これから生きていってもよいのだろうか」ということまで考えるようになることがあります。
子供たちの成長に対しても見過ごせない悪影響が生じることがあります。「親は自分を育てることより働くことを選んだんだ。仕事を優先したんだ。」と考えてしまい、引きこもりと家庭内暴力を繰り返したお子さん。自分を大切にするという感覚がすり減ってしまったかのように、非行を繰り返すようになったお子さん。父親が過労自死して数年してからパニック発作が起き出したお子さん。子どもたちは、自分には責任がないにもかかわらず苦しんでいます。
また、働き盛りの父親を亡くしたご家庭は、母親が一人で子育てをしなければなりません。母親はがんばりすぎて、クリスマスが来ることは知識としては頭に入っていたけれど、子どもたちを喜ばすという発想が飛んでしまって、お祝いすることができなかったと後悔したお母さんもいました。過労死がなくなる前でも、子どもたちに対する悪影響をなくしていきたいということも東北希望の会の悲願です。

6 過労死、過労自死で命を落とさなければそれでよいというものではありません。これまで述べた通り過重労働は、労働者と家族を不幸にします。過労死するかしないかの境界線にいる労働者は多いと思われますので、死亡という結果だけを防止することは、それ自体に無理があると思われます。原因を除去して不幸をなくしていかなければならないと思います。

7 東北希望の会は、こういう意味から、人間らしく生きる、家族と幸せになるために働くという環境、職場を作ることを求めています。人が人を追い込む職場から、人と人が助け合う職場への転換を会の目的として求めています。

過労死を招く過重労働は、死という最悪な結果を生むだけでなく、命を落とさないまでも本人や家族にとって、重大な影響を与えています。死ななければ良いというものではありません。死なないことは当たり前です。その当たり前の先にある、助け合い、支え合うという人間関係を構築することを目標に据えないと死なないという当たり前のことも実現しないのではないでしょうか。家族のために、特に子供たちの健全な成長のために、過重労働をなくし、人間らしく生きるための職場を作ってほしいということが私と、東北希望の会の願いです。

なぜ、過労死する前に仕事を辞められないのか ワークライフバランスが本質をついているということ  1 過労死の進行途中に自覚症状がないこと 2 自分の働き方の異常に気が付かない事 3 過労死する人の特徴は、責任感が強く能力が高い 4 対策 会社軸でも自分軸ではなく「家族軸」の思考

なぜ、過労死する前に仕事を辞められないのか ワークライフバランスが本質をついているということ

なぜ過労死をする前に仕事を辞めないのかということについては、多角的に感がいなければならないのですが、ここでは2方向から考えます。

1 過労死の進行途中に自覚症状がないこと

過労死は、最終的には死に至る出来事ですが、その病名は、心筋梗塞、くも膜下出血、脳梗塞、うつ病等による自死が代表例です。これらの病気をみると、すべて発症するまで自覚症状がないという特徴があります。
本当は長時間労働の過重労働による生理的疲労が少しずつ蓄積しているのですが、痛みとか苦しさが感じられないので、進行していることに気がつくことがなかなか難しいのです。
このため、本当は体が危険な状態なのに、それに気がつくことができないため、「命を最優先して仕事を辞める」という発想にはなかなかなりません。
また、長時間労働が血管や精神を蝕むと言われてもその流れがわかりませんから、「今大丈夫だから」ということが続いてしまうわけです。
先ず、形式的に、長時間労働と呼ばれる月45時間以上の残業や休日労働をしないことが第一歩の過労死予防として取り組まれなければなりません。

2 自分の働き方の異常に気が付かない事

自分の体の状態に気が付かないとしても、過重労働をしないという選択肢を持つべきことには間違いありません。家族から「少し休んだら」と言われても、それに耳を傾けないで働き続けるということが起きています。それがどうして起きてしまうのかということが、今回考える一番のポイントです。

そもそも100時間の時間外労働を1か月続けるということは、すさまじいことです。9時から18時までの仕事で100時間の意味を考えてみましょう。例えば、月曜日から金曜日まで8時間労働だとします。月曜日から金曜日まで毎日4時間ずつ残業をする、つまり、毎日22時まで時間外労働をするとなると、月曜日から金曜日まで5日間ですから20時間の時間外労働となります。これに、土曜日か日曜日5時間休日労働をすれば、週25時間の時間外労働ということになります。一か月が30日だとすれば、4週と2日ありますから、そんな働き方を1カ月続けると25時間×4週 プラスアルファということで100時間の時間外労働となります。家に帰るのは11時くらいでしょうか。そこから夕食を取り、風呂に入り、雑用をすると深夜0時を過ぎるでしょう。朝起きて8時には自宅を出るとなると、土曜日か日曜日に出勤しないといっても布団で寝ているような状態になるのではないでしょうか。
これでは、他の家族にとって、家族とともに生きているという実感が希薄になってしまうことは仕方がないかも知れません。

このような過重労働は、やらされてできるというより、やろうと仕向けられていると感じることが多いです。具体的な残業や休日出勤を命じられているというよりは、仕事が多く、それをこなそうとして、自分から仕事に向かっていっているような印象すら受けるのです。
会社の言いなりに働いているとか、社畜とか、ひどい言葉で批判されることがありますが、嫌々やってできることではないように思われます。むしろ、嫌だとか異常だとか感じなくなることが怖いと考えるべきです。確かにむりやりやらされているケースもあるのですが、感じ方が正常な人は、退職するきっかけにすることができるようです。

3 過労死する人の特徴は、責任感が強く能力が高い


過労死する人の特徴は、責任感が強い、能力が高いという二つの要素があるようです。
責任感が強い場合、会社から命じられたこと、皆で決めたルール、目標は守らなければならないという強い使命感を持っているようです。同僚がやらないことが理解できず、他人がやらなければ他人の分まで自分がやらなくてはならないという発想になるようです。
能力が高くなければ、やらなくてはならないと思っていても、できないのだからあきらめることができます。ところが、時間をかけて何とかやり切ってしまうということができる能力を持っています。能力が高くても、通常できないと判断してやらないという人も無理をしないですみます。
責任感と仕事遂行能力どちらかが欠けていれば、過労死しないで済んだだろう人たちがたくさんいらっしゃいます。

秩序維持志向が強い
人間の本性として、スタンレーミルグラムは実験(*1)によって、人間は秩序に従おうとする本性があり、秩序に従い、ルールにのっとって行動しているという自覚がある場合は、他者を傷つけることにさえ抵抗がなくなるということを実験結果として提示しています。多かれ少なかれ、ルール、正義、秩序を守ろうとする本能的な性質があるようです。
過重労働に耐えてしまう人は、自分を傷つけても決まり事を守ろうという意識になるのでしょう。これは責任感が強いということの本質かもしれません。
(*1)「Stanley Milgramの服従実験(アイヒマン実験)を再評価する 人は群れの論理に対して迎合する行動傾向がある」このホームページの「研究ノート」からブログに写れます。

4 対策 会社軸でも自分軸ではなく「家族軸」の思考

これまで、私は、労働者の方々の自己防衛のためには、過労死防止のためには、会社という他人軸でのものの考え方から、自分軸、自分を中心にものを考えるということで過重労働をしないようにするということを提案してきました。しかし、これはなかなか効果が上がらないのではないかと考えるようになりました。
つまり、正義感や責任感で仕事を続けてしまうケースの場合は、既に働くことが自分軸ではないと感じることが難しい状態になっているということです。自分の事情よりも社会の事情を優先するということが自分軸としての発想になっているようなのです。
私は、会社軸に変わる家族軸でものを考えるということを提案します。会社軸に立つなということよりも、自分という個人的事情より家族という集団の中で責任を果たすという発想を優先することは比較的容易なはずです。しかし、家族というのもプライベートであり、家族というプライベートな事情よりも、会社という公的な事情を優先させようという発想が、放っておけば普通に出てしまいます。より公的な責任を重視するからなのでしょう。
だから、一つには、家族の利益を優先しなければならないということを無理やり注入する必要があるのだと思います。月80時間、100時間の時間外労働をしていれば、あなたが必要な家族が蝕まれていくということを自覚してもらい、家族が生きる、子どもが成長するということは簡単ではないのだということを国民的なコンセンサスにする必要があると思うのです。この注入こそが過労死防止の実務的な対策のひとつになるでしょう。
また、家族と過ごす時間を確保するということが国民的な課題だという問題提起も有効かもしれません。ワークライフバランスという言葉が浸透し始めていますが、ここでいうライフは乳児の子育てと老人の介護だけではなく、根本は子どもの健全な成長だということをしっかりと意識するということです。具体的にお子さんや家族がいらっしゃらなくても、次世代の国民を育てるという観点を持つことはとても大事だと国民的世論を形成する必要があるということです。
働き方改革とは、このような理念で推進していくべきだと考えています。

私の担当事例の傷病名

私の担当事件の傷病名・職業・解決手段


傷病名・職業・事件類型・一次解決手段(損害賠償については略)
うつ病・テレビ局(派遣)・労災・労災認定
心筋梗塞・建設土木・労災・労災認定
くも膜下出血・自衛官・公務災害・裁判所
大腿骨骨頭壊死・船員・労災・労災認定
外傷性頸部症候群・教師・公務災害・認定(審査会で逆転認定)
髄液漏の事案)
脳出血・建設・労災・労災認定
概日リズム障害・運転手・損害賠償阻止・裁判
ブルガタ症候群・復興作業員・労災
適応障害・建設・パワハラで損害賠償・裁判所
不整脈による心停止・薬局・労災・労災認定
多発性出血性胃潰瘍・役場職員・公務災害・認定(支部審査会で逆転認定)
頚髄損傷・建設土木・労災・労災認定
フラッシュバック症候群・交通事故・示談
高次脳機能障害・交通事故・交通事故紛争処理センター

コンパートメント症候群・学生・裁判


心筋梗塞・運送・労災・労災認定
うつ病・医師・労災・労災認定
うつ病・教師・労災・労災認定
うつ病・団体役員・解雇無効・裁判
うつ病・教師・公務災害・認定(中央審査会で逆転認定)
うつ病・運輸・労災・労災認定・裁判
うつ病・食品メーカー・労災・労災認定
うつ病・警察官・公務認定・認定
うつ病・研究者・労災・労災認定
転落死
腰椎横突起骨折,左腓骨骨折
右足小指骨折、右足甲打撲
海中転落行方不明 ・船員・労災認定

自殺した友人の思いを晴らした判決―中学校教師の自殺を公務と認定・仙台地裁

自殺した友人の思いを晴らした判決
―中学校教師の自殺を公務と認定・仙台地裁

1 私の友人Oは、我々の出身中学校で英語の教師をしていた。バドミントン部の顧問をし、被災した平成10年は、全国中学校バドミントン大会が仙台で開催されたため、大会の準備、運営に実務的な責任者として携わっていた。その大会のさなかである平成10年8月24日、宿泊先のホテルで亡くなった。36歳で、当時娘さんは5歳だった。本年8月28日、仙台地方裁判所は、この死が公務災害であることする判決を宣告した。ちょうど9年の月日を要したことになる。

2 私と被災者Oは、小学校から高等学校までの合計12年間、同じ学校に通った友達だった。ひまわりのように明るく、隠し事の無い、ジーパンのよく似合う好青年だった。いつも友達に囲まれていたことをよく覚えている。Oが自殺をしたということは、同窓会でも話題になったが、驚きよりも、イメージとかけ離れすぎているため、みんな受け入れがたいという思いだった。

3 Oの奥さんは、Oの死亡が過重労働によるものだと地方公務災害基金支部に申し立てたが、公務外とされ、審査請求、再審査請求といずれも棄却された。そこで、平成17年12月に、公務外判断の取消を求めて仙台地方裁判所に提訴をした。
 私が弁護士として本件に関わったのは、提訴にあたり弁護団を拡充することになったためである。
 提訴の2年ほど前、同じ学校の先生の過労死事件として、堺市の鈴木均教諭の事件が大阪高裁で公務災害と逆転認定された。この事件の報告を受け、判決を読む機会に恵まれたていた。事件受任にあたり改めてこの事件の判決を読むと、判決が、一つ一つの事実を詳細に認定していることが強く印象に残った。弁護団はこの何倍も事実調査をされたのだろうなと思い、これにならって改めて何人もの先生に事情聴取をすることとした。わかったふりをしないで、中学校教諭が何をする職業なのかということを、改めて聞きなおしてみようと弁護団で話し合った。
  聴取を進めるうちに、中学校の労働現場の実態が、想像していたよりも深刻であることが、少しずつ解ってきた。
  Oと同じ時期にバドミントンの全国大会の同じ事務局の仕事をした先生には、あえて部活動をしている時間に学校に話を聞きに行った。その先生は結婚して20年間、土日も部活動指導があるため、家族旅行は新婚旅行以外いったことがないと話してくれた。7時に全ての生徒が帰宅するのを見届け、これからクラス担任の仕事をするといいながら、弁護団を校門まで見送ってくれた。授業の準備は帰宅後だと話していた。
  被災時のOの学年主任だった先生には、何度も放課後に夜遅くまで、事情聴取をさせていただいた。当時の赴任中学校の労働実態、生徒指導上の問題点など、具体的かつ詳細に明らかになっていった。また、この先生から、紹介されて、当時の教え子からも話しを聞くことができた。この教え子の話は極めて有意義であった。例えば、学校長の基金支部への報告は、生徒会の指導は大友だけでなく、3人で分担して行っていたとしていた。しかし、この教え子は、当時生徒会役員であり、全ての生徒会の会議で、Oが中心的に指導をしていたことを話してくれた。自分が指導を受けていたのだから間違いようがない。この教え子には姉がいて、こちらはバドミントン部の教え子だった。こちらからは、夏休みに、Oが精神的に疲弊して行く様子について、話を聞くことができた。


4 公務認定や本件裁判に向けて、先生方から150名分のひと言意見を集めた。その中には、気がついたらトイレに行けないまま1日が終わったとか、放課後の部活動指導のためにわが子をカップラーメンとスーパーの惣菜で育てたといったものなど、様々な悲惨な訴えが寄せられた。
  中学校の現場は、平成10年と今とほとんど変わっていない。事情聴取をすればするほど、中学校は、教師の自分と家族を犠牲にした献身的な指導と、疲労の中にありながらの驚異的な事務処理能力によって、かろうじて成立しているということが感じられるようになった。このような悲惨な現場に自分の子供を預けることができるだろうかと躊躇するほどであった。
  事情聴取をしてゆくうちに、中学校の先生方の労働条件の問題、教育を受ける中学生の側の問題など、次々に考えさせられることが増えて言った。いよいよ負けるわけにはゆかない裁判となっていった。

5 裁判の争点は2点。1点はOの公務が過重であったか否か。もう1点は、全国大会事務局の仕事が公務かというものであった。全国大会は、教育委員会と別団体であり、校長の具体的な指揮命令がないので、公務では無いと被告は主張した。
  判決は、先ず公務性の問題について、学校長による部活動顧問の任命は、包括的に全国大会実行委員への任命も含んだものであるとして、被告の主張を気持ちよく一蹴した。
  次に公務の過重性については、精神的付加のポイントについて、驚くほど事実に忠実に詳細に事実認定してくれた。ダンボールの山の中から見つけた、英語教諭である大友が社会科を担当する悩みがつづられた資料は、そのまま判決に引用された。苦労が報われ、裁判所に対して、思わず感謝した。
  そして、その上で、被災前3ヶ月、いずれも100時間以上の残業を認定し、過重公務と自殺との因果関係を明快に認定した。

6 控訴期限の前日、被告の支部長である宮城県知事の定例記者会見で、控訴断念が発表された。今ようやく肩の荷が下りていくことを実感している。
  Oの心残りは、家族を見捨てて、苦しみから逃れるために、自殺したのではないということを、妻と当時5歳だった娘さんに伝えられなかったことだったはずだ。今回、仙台地裁の判決は、彼の自殺が、過労によりうつ病に罹患し、うつ病の影響の下での自殺だったことを、明快に説明してくれた。
  被災時5歳だったOの娘さんは、中学生になった。父が顧問をしていたバドミントン部で活躍しているとの事である。Oの娘らしく真っ直ぐに成長されている。奥さんもひとかどならぬご苦労をされていることと思う。この判決が、教育機関の名に値する労働現場としての中学校となるための一助になることを心から願う次第である。

平成22年  青年法律家協会

我、日の丸を背負いて、国と闘えり自衛隊過労死訴訟逆転勝訴報告

我、日の丸を背負いて、国と闘えり
自衛隊過労死訴訟逆転勝訴報告
              
1 事案の概要
  平成13年9月11日、アメリカでいわゆる同時多発テロが起きました。その10日後、宮城県の自衛隊駐屯地の通信室で、自衛官が死亡していたことが、朝出勤してきた同僚によって発見されました。亡くなっていたのはS自衛官、享年51歳でした。
  S自衛官の役職は、字数制限のため伝え切れませんが、野球で言えば監督の下のヘッドコーチでもあり、独身寮の寮長や、遠征の手配などをするマネージャーも兼任しています。その上、人数が足りなかったので、試合にまで出ていたという状況でした。
  自衛隊の当初の認定でも、亡くなる1ヶ月の総労働時間が300時間を超え、残業時間も120時間を超えています。日夜勤といって、朝から翌朝までの24時間勤務が6回ありました。日夜勤業務に引き続き日勤業務をしていました。この日勤業務でも残業をしていたことが2回ありました(34時間連続勤務)。
  その中で、9.11同時多発テロがあったわけです。毒ガステロに備えて、防護マスクを常に携行する等ものものしい警戒態勢が取られ、自衛隊内は一般以上に緊張が張り詰めていました。
  それでも国が公務災害だと認めなかったため、平成19年5月、S自衛官の妻は、仙台地方裁判所に訴えを提起しました。
2 原審の争点
  原審で、原告側は、人事院等、国の認定基準文書を引用し、本件は、これに当てはまる事案だと主張しました。いつもの、過労死の行政訴訟であれば、国の代理人がやっているような主張です。
  国の主張は驚くべきものです。字数制限のため大胆に要約すると、命令されたらそれが正規勤務時間だ、290時間の命令があれば、それを超えないと残業時間としないというものでした。
  もう一つの国主張の柱は、一つ一つの作業は過重では無いので、総じて過重な労働は無い。したがって、仮に残業時間が100時間を超えても、過労死ではないというものです。そもそも部隊に残っていても働いていないとも言っていました。
  国のために我が身を投げ出して働いている自衛官とその遺族に対して、なんという侮辱でしょう。
  他にも、行政認定では求めていない要件を付加してきたのです。
  私は、国の主張としておかしいのではないかと、法務大臣を証人として申請することまで考えました。こちらは、国の行政認定基準を素直に解釈して、主張をしているのです。国は、行政認定基準を無視して主張を展開していたことになります。
  S自衛官の弟さんも元自衛官で、こちらの訴訟を支えていただいていたのですが、この方に対して私は、「国がするべき主張をしているのは、国ではなく我々だ。日の丸を背負っているのは国の代理人ではなくこちらこそだ。」と励ましたものでした。
  こうした裁判だったので、原審は、代理人を広げることができない事情もあり、代理人は私一人でした。
3 原判決
  原判決は、まさかの敗訴でした。途中から訴訟指揮も、弟さんの証人申請を却下されそうになったり、雲行きが怪しいといった、予兆みたいなものがあり、案の定敗訴でした。
  ただ、原判決も、月間300時間を超える残業は認定していたのです。働きもしないで部隊に残っているという馬鹿な話は無いという痛快な認定です。ところが、判決文の最後の最後で、それぞれの仕事は軽微なので、過労死するはずは無いというのです。
  判決文を読むと途中から別の人格が介入して、結論だけが悪く変えられていたという印象を強く受ける判決でした。
4 弁護団の拡充
  最初、判決の結論を知ったとき、私も弁護士自体をやめたくなりました。裁判所、司法制度に対する希望がしおれはててしまった感じで、すべてがむなしくなりました。
  立ち直りのきっかけは、ようやく判決を読んだとき、そのあまりの理不尽さに無性に腹が立ってきたからです。このまま闇に葬らせてはならないという気持がふつふつと沸き出てきました。
  原告を説得し、弁護団の拡充を認めてもらい、呼びかけをしました。仙台弁護士会も8名の弁護士が名乗りを上げてくれました。なんと大阪からは波多野進先生も名乗りを上げていただきました。さらに波多野先生は、実働どころか中心メンバーとなって活躍され、膨大な証拠資料の提供や、準備書面を起案していただきました。波多野先生が逆転勝訴の最大の功労者であることは間違いありません。特に波多野先生経由で作成していただいた労働科学研究所の松元先生の意見書は、そこにいたかのように公務の実態が書かれていて、驚きました。平成21年11月、皆さんの善意で、仙台高裁での闘いが始まったわけです。
5 勝利判決
  平成22年10月28日、判決の日、弁護団原告で、法廷に入りました。負けるはずがないという確信はありましたが、なんと言っても原判決のトラウマがあります。これほど緊張したことは記憶ありません。
 「原判決を取り消す。」裁判長の判決読み上げは、最初意味が頭に入ってこなかったほど嬉しかったです。判決を読んで、さらに感動は高まりました。労働時間についても国の主張は到底認められないと明快に排斥している他、一つ一つの職務内容も大変だったのにそれを全部一人でやっていたということで、過重負担も真正面から認めてもらいました。その他、すべてにおいて一転の曇りない素晴らしい判決でした。字数制限が本当に残念です。
  原告や亡くなったS自衛官にとって見れば、仙台高等裁判所の判決が出て、初めて、S自衛官がわが国のために誠心誠意、文字通り骨身を削って真面目に働いていたことを正面から認めてもらうことができました。格調高い素晴らしい判決でした。
  11月11日の経過をもって、この判決は無事確定いたしました。弁護士人生最良の出来事です。波多野先生を初めとする弁護団、ご協力いただいたすべての方、誰よりも、くじけずに最後までがんばりぬいた原告と弟さんに感謝の気持でいっぱいです。

青年法律家協会

居眠り運転で会社の自動車を大破したけれど、会社の運転手に対する損害賠償請求が判決で棄却された事例

居眠り運転で会社の自動車を大破したけれど、会社の運転手に対する損害賠償請求が判決で棄却された事例


ある運送会社の運転手が、2トントラックを運転して、他県に配送に行っているときに、昼間に居眠りをしてしまい、自損事故を起こしてしまい、会社の2トントラックを大破してしまった事件です。

「居眠り運転なので、会社は運転手に損害賠償を請求できる。」と思うことの方が、もしかしたら常識かもしれません。
しかし、私は、労働者の代理人となり、払う必要なしとして争いました。判決は、会社の請求を棄却する、つまり会社は居眠り運転手に損害賠償を請求できない、というものでした。

裁判所が認めた私の立論はこうです。居眠りを起こしたのは、会社の責任である。確かに自己を起こしたきっかけは、居眠りをした運転手である。しかし、居眠りの原因は会社の働かせ方にこそある。会社は自分で原因を作っておいて、損害だけを労働者に負担させることは公平ではない。(むちゃくちゃだ)というもので、これが裁判所で通ったということになります。

実際その労働もひどいものでした。運転手はアルバイト扱いなのですが、夜の23時に会社に集合で、荷積み作業をまず行います。荷積み作業が終了次第出発なのですが、出発は早くても深夜0時となり、1時、2時の出発も通常の子となのです。道路が空いている時間帯に、高速料金を「節約」するために、一般道を運行をするためです。深夜に4時間から5時間かけて、他県まで運転してゆき、薬や雑貨の量販店に行き、夕方4時間、5時間かけて帰ってくる。そして、また、夜の23時集合。アルバイトの時給ですから、ひたすら給料は安い。社会保険もなし。会社は「節約」しているわけです。

会社の言い分は、その労働者は夜間労働が慣れているとか、眠くなったら、休んでいいと言っているとか、そういう反論をしていました。

しかし、夜間労働は慣れるものではありません。また、出先で休んでいたら、とても夕方まで家に帰れません。そうなったら、次の23時の集合に、寝ないでゆかなければいけなくなってしまいます。ただでさえ、数時間しか、眠る時間はないわけです。本当によく過労死しなかったと思います。
こちらの主張立証で、力を入れて工夫もしたのが、概日リズム障害という医学的主張です。
おそらく、労働者は、慨日リズム障害という状態になっており、眠くなったから居眠りをしたのではなく、突然眠り込んでしまった可能性もあるようでした。
慨日リズム障害というのは、時差ボケのひどい状態です。人間の体には、朝起きて、夜眠る体内時計が組み込まれているために、昼夜逆転の生活が続くと、この体内時計が狂ってしまい、色々な障害が起きてしまうということのようです。突発的に眠りにつくということも症状の一つとしてあるようです。

これを医師の証言なく裁判をしなければならないというのが、つらいところでした。なんせ、医学鑑定なんていうことになれば、正式には100万円を納めなければならないということも珍しくないのです。

とにかく少ない文献を、いつもお世話になっているわが事務所のアドバイザー医師の協力のもとで集めて、なんとか形にして、裁判所の卓越した理解力に救われながらも、この主張が認められて、無事請求棄却ということになりました。

この事件の会社は、国の通達に反して、運行管理を、事実上放棄していた事案でした。他の都道府県に本社がある会社ですが、数10人の運転手がいても、全員がアルバイト扱い。このまま働き続けたら、老後は国民年金だけで生活しなければならない人たちです。このアルバイトは、現地採用です。数人の所長、運行管理者、整備管理者だけは社員ですが、すべて本社の他の都道府県の採用の人です。

裁判の時に、この会社の社長さんと少し話す機会があったのですが、結局、量販店等安価な商品は、運送費が安く抑えられているので、こうでもして人件費を抑えてはじめて採算が合うのだというのです。安い商品を買う時、将来国民年金だけで生活する人たちがこうして働いていることで、このお値段で提供できるんだと、それ以来、ついつい考えるようになりました。

理不尽な損害賠償で苦しんでいる運転手も多いのかもしれないと、そんな気持ちから、あえて、事件紹介をしました。

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