犯罪に関しての誤解としては、皆さん言葉にこそ出されませんが、生まれつき犯罪をする人と、一般の人と二種類の人がいるという感覚を持っている人が案外多いものです。
しかし、これまでの30年の刑事弁護の経験からすると、犯罪をしてしまう圧倒的多数の人は、普通のいわゆる一般の方だということが実感です。特別な発想や特別な思考パターンがあるから犯罪をするというのは誤解です。
専門的な話をすれば、我々は、常に自分の行動を意識して行っているわけではなく、無意識にパターンに従って行動を開始してしまうということが実際だと言います。ただ、なんとなく行動をした後で、それは自分が意識してそう行動したのだと後付けで説明をしていることが多いのだそうです。
犯罪をする場合も、この無意識の行動決定で行っている場合が多いです。犯罪を起こしてから自分のしでかしたことに気が付いて呆然とすることは、職業的犯罪を除いた場合の通常の犯罪形態のようです。だから、犯罪であることを知らないで実行してしまったということは、実際はほとんどありません。どうして犯罪と知っていながら罪を犯したのかという視点で弁護をしなければ再犯を防止することは難しいでしょう。
但し、通常の精神状態、通常の人間関係であれば、そもそも犯罪を行うという無意識の選択肢は現れません。欲しいものがあるからと言って盗むという選択肢はそもそも起きません。買うお金が無ければ通常諦めるわけです。なぜ犯罪の選択肢が現れたのか、なぜ犯罪の選択肢が消えないまま実行してしまったのかというところに、本当の原因があるのです。
ここを考えないで弁護をして、その時多少の減刑があったとしても、将来同じことを繰り返してしまえば、何の意味もなくなるわけです。とにかく今の裁判を軽い判決にしようということだけを考えて弁護してしまうと、将来の犯罪を防ぐ対策がありませんから、また同じ犯罪を繰り返してしまう危険があるということになります。
万引きや無銭飲食、道路交通法違反事件(無免許、酒気帯び、速度制限違反等)がその典型例です。
犯罪は普通の人間がしてしまう社会病理です。普通の人間がなぜ犯罪をすることを思いとどまることができなかったかということから刑事弁護は出発しなければならないと私は考えています。
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