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家裁から離婚調停申し立ての書類が送付された場合

目次


 1)家裁から書類が送付されてくる

 2)送られてきた申立書をチェックする

3)こちら側の方針を決める

4)調停期日の優先事項 通常先ずは婚姻費用の確定から

5)離婚調停で誰と話すのか 調停委員会と調査官

6)相手方として、まず何を聞かれるか 認否の仕方と離婚意思の告げ方

7)財産分与の準備

8)離婚についての話し合い

9)何を認めて何を否定するか

 10)自分の弁護士は何をするのか


1)家裁から書類が送付されてくる

先ず、家庭裁判所から、申立書、呼び出し状、こちら側の意見を記載する用紙、それから個人情報の秘匿についての説明書などが送付されてきます。

  こちら側の意見を記載する用紙については、調停期日(呼び出し状に記載)の1週間前くらいまでに返送をするように指示され、返信用封筒が同封されていると思います。


2)送られてきた申立書をチェックする

この中で一番大事なものは申立書です。次に大事なものは呼び出し状です。

  申立書はいろいろな情報が記載されています。申立人に弁護士が付いているかどうか、いつ申し立てをしたかということも記載されています。一番気にするべきことは離婚をしたい理由です。但し、きっちりと物語的に文書で理由が書かれている場合と、アンケートの回答みたいに項目に丸を付けているだけのものと2種類あります。項目〇付けパターンであっても、申立人が暴力を受けていたと主張しているとか、精神的虐待を受けていると主張しているかということはわかります。また項目〇付けパターンの場合、弁護士の氏名が記載されていないことが多いですが、そういう場合でも弁護士が代理人になる場合も少なくありません。申立は当事者の名義で行い、後から又は同時に委任状を提出するというパターンが少なくありません。

  この時身体的暴力があるというところにチェックがなされていると、申立人がこちらに知られないように裁判所に対して、こちら側が凶暴な人間であり、裁判所でも乱暴狼藉を働く可能性が高いという連絡をしている場合があります。こちらは、「暴力なんて実際はないから、誰も真に受けないだろう」と高を括っていることが圧倒的多数です。しかし、裁判官は職員や当事者の安全を図る目的で裁判所職員に警備をさせることが良くあります。トランシーバーをもち、スーツを着てインカムをつけて廊下をうろうろしている人はおそらくそう言う人でしょう。最近女性職員も警備をしていることがあり、ここまで男女平等でなくても良いのではないかと思いました。

  多少大きな声を出すということはありうることですが、めったに裁判所で暴力をふるう人はいません。職員や当事者の安全という目的はわかるのですが、これから調停を行い紛争を公平に調整するという場において、一方の情報提供だけで他方に対して暴力を疑って人員を配置するということで、果たして公平な調停運営をすることができるのか、モヤモヤするところではあります。

  しかも、訳知りの弁護士が付かなければ、自分が警戒されていることにも気が付かないということでモヤモヤはさらに大きくなります。

3)こちら側の方針を決める

 さあ、この離婚調停を自分はどう対応するかということをそれなりに決めておく必要があります。考えるべきことは以下のとおり

 @ 離婚に応じるか否か

 A 未成年の子どもがいる場合どちらが親権者となるか

 B 慰謝料の支払いに応じるか

 C 財産分与に応じるか

 D 年金分割に応じるか

 E 離婚までの生活費、婚姻費用分担金を支払うか

ということが通常話題になることです。

 このうち離婚に至らない場合は、E以外は何も決めなくてよいことになります。

 離婚になれば、CとDは機械的に決められてしまうと考えておいた方が良いです。但しCについては財産分与の対象となるかどうかは専門家によくよく確認した方が良いと思います。


4)調停期日の優先事項 通常先ずは婚姻費用の確定から

 調停期日では離婚調停の外に婚姻費用分担調停の申し立てがあれば、婚姻費用分担の金額が先に話し合いをして決められます。特に相手方が全く費用を支払っていない場合は最優先です。ある程度の費用を支払っており、申立人にも収入がある場合は、まれに後回しになることもあります。

 


5)離婚調停で誰と話すのか 調停委員会と調査官

 調停委員は通常は男女2名です。裁判所の職員というわけではなく、民間人です。比較的年配の人が多いです。いろいろな職業の人がいます。この調停委員が調停を仕切るわけです。未成年者の子どもがいる場合は、調査官という職業の人も立ち会います。若い裁判官などは調査官の意見に強く影響されますので、雑に扱ってはダメな人です。調停委員2名と裁判官の合計3名が通常調停委員会を構成するのですが、裁判官はその日のその時間の調停を掛け持ちで担当しているので、よほどのことがない限り裁判官が直接調停に参加することはありません。

現在は、申立人と相手方は、一緒に部屋に入ることが無く、順番にかわるがわる部屋に入って調停委員、調査官と話をすることがほとんどです。


6)相手方として、まず何を聞かれるか 認否の仕方と離婚意思の告げ方

 まず聞かれることは、オーソドックスには申立書に記載していることが本当かどうかということです。ここで大切なことは、@先ず結論を明確に(そのような事実が無ければ、無いということを先に言いましょう)Aできるだけ細かく、ここは違うここも違うという具合に言うこと、大雑把に「全体的に嘘」というよりも細かく認否をした方が良いと思います。結局全部違う場合でも一つ一つ違うというべきです。一部でも嘘や大げさな事実を認めないための方法です。

 

  次に大抵一番重要なことが聞かれます。3)の@からDについての相手方であるあなたの態度です。特に離婚に応じるかどうかということが尋ねられます。この回答には注意が必要です。「書いてあることが嘘と大げさなことだらけなので、これで離婚にはならないだろう。だから、離婚に応じるつもりはありません。」と答えてしまうと、調停委員の中には、一応申立人に再度話を聞いて、離婚の意思が固いということになると、「残念ながら平行線のままのようですから、調停ではまとまりませんので、調停は不成立で終わりになります。」と言って、一度で調停が打ち切られ離婚訴訟に移行してしまうケースが一時よく見られました。

  これでは、離婚の場合は、裁判をする前に当事者で話し合うという制度にしている調停前置主義がなりたたなくなります。結論は変わらないにしても相互理解に努めるべきです。相手の言い分に賛成はしないけれど、一応気持ちは分かったというところまでは話し合いをするべきだと私は思います。

 

  第1回調停で打ち切られないための防衛策が発達してきました。嘘をつくわけではなく、本当の気持ちを言葉に出すということです。それは、

 

「子どもの私との安定的な関係が確立できたならば、離婚についても選択肢として検討する。」

 

という言葉です。この言葉が出れば、子どもとの面会などの話し合いを継続しなくてはならなくなります。もっとも、それでも申立人が何が何でも調停を打ち切って裁判に移行させたいという場合もあります。その場合は離婚調停であるために面会については面会交流調停が申し立てられなければ話すつもりはないと突っぱねる場合です。しかし、民法では離婚に際して面会交流などの別居親との交流について取り決めすることになっています。話し合いを直ちに拒否することができないはずです。

 

二人の間に未成年のお子さんがいる場合は、私は早めに面会交流調停を申し立てるべきだと今は思っています。


7)財産分与の準備

離婚にならなければ財産分与の取り決めなどしなくてよいのですが、財産分与は資料を集めるのに時間がかかりますから、離婚の話し合いと並行して準備をすることを求められ、通常準備をしています。財産分与の対象については専門家の意見を聞いて主張をすることをお勧めします。


8)離婚についての話し合い

ここはまず、相手の主張をじっくり聞くことです。離婚を申し立てられてかっかと来ていることがふつうですし、子どもを連れ去られているならなおさらです。それはわかります。しかしながら、こちらが悪いわけではないにしろ、相手が自分といることで落ち着けないという理由が何かあるはずです。言葉を文字通り聞いてしまうとそれはなかなかわかりません。自分が悪くないとしても、こういう気持ちだったのかということを考える材料くらいに聞いて、ご自分で考えると、賛成はできないけれど、ああそういうことかと分かることがあります。コツは、どちらが良い悪いかということを抜きに相手の気持ちだけを考えるというところにあります。



9)何を認めて何を否定するか

相手の言い分をじっくり検討して、認めるべきところと認めてはダメなところを区別して話すということが肝心です。

相手に寄り添うといって、何でもかんでも認めてしまうと、かえって相手は自分の言っていることに確信を持ってしまい、不安が増大してしまうということがあるのでややこしいのです。 

また、事実と違うのに、子どもに対して厳しく当たったということを認めてしまうと、後々子どもとの面会が難しくなるということもありますので、事実と違うことは認めてはなりません。


10)自分の弁護士は何をするのか

 どうでしょう。あなたが「離婚調停を申し立てられた方ではない」ならば、これならば弁護士を頼まなくても自分でできるのではないかと考えられる方もいらっしゃると思います。

 しかし、当然の話ですが、離婚調停を申し立てられ、しかもその理由が身に覚えのないことや明らかに事実に反することであったり、子どもと会えなくさせられていたり、警察が自分を容疑者扱いをしたりされたら、冷静でいられるわけはありません。自分名義で借金をされていたり、生活費を渡していたのに家賃を数か月以上支払っていないという事例もありました。もちろんあなたの周囲はそのような事情をある程度知っていますから、こんな不正義が許されてよいわけはないと言って、あなたを励まして、筋を通すことを勧めることでしょう。

 

 しかし、調停委員も裁判官もそのような事情は知りません。申立代理人の弁護士も、申立人側の話だけを聞いて仕事をします。当事者は、客観的に公平な判断が当然なされるだろうという見通しから、第三者に伝えることをついつい省略してしまいます。現実の裁判所の動向についても知りません。また、自分の今の状況を思うと悔しさが自然と出てきてしまいますから、つい感情的な言動をしてしまい、自分の立場を悪くしてしまうという極めて不合理な状況に陥りやすいのです。

 

 弁護士は、1)から9)まで、すべて第三者の視点ないし裁判官だったらこう考えるだろという視点で、見通しを考えることができます。感情的になることをセーブするとともに、適切な選択肢を提示することが弁護士の役割ということになります。決めるのはあくまでもご本人です。

 

 調停は当たり前のことを言葉に出して説明することを求められると言っても良いと思います。この当たり前のことを、文献などを引用して、客観的にはこういえるはずだということが弁護士の役割でもあります。

 

 また、妻が申立人になって、裁判所には夫のDVがあったということを一方的に告げていて、DVはだめだという素朴な正義感から調停委員が真実も確認しないで夫側に厳しく対応することも無いわけではありません。こういう場合には、弁護士は断固たる態度で公平な運営を求めるという仕事をしなくてはならないと私は思います。

 

 弁護士を選ぶポイントは、費用の額の問題もさることながら、自分のできないことをする人、自分の言動をセーブしてくれる人を選ぶこと、自分の代わりに感情的になってくれる人かどうかというところかもしれません。